『かつしかの暮らしと文化(193)』 銭湯で師走を思う

2016年12月25日号の「広報かつしか」に掲載された

『かつしかの暮らしと文化(193)』 銭湯で師走を思う

のご紹介をさせていただきます。

 

『かつしかの暮らしと文化(193)』 銭湯で師走を思う

このところ、街の風景から銭湯の姿が消えてしまうことが加速度的に多くなってきています。例えば葛飾区内では、1980年代には150軒ほどの銭湯が営業していましたが、現在では31軒となっています(12月時点)。一般的に内風呂の普及が銭湯減少の原因といわれていますが、後継者問題など、さまざまな要因が重なって店じまいに至っているようです。

御殿風の造りや高い煙突など、銭湯は街の風景としても存在感があります。銭湯がなくなると、その土地はマンションや建売住宅に変わることが多く、街の風景はガラッと変わってしまいます。また、銭湯を中心に賑わいを見せていた店舗などの風景も、銭湯とともに失われていきます。

葛飾区の街の風景から銭湯が消えていく状況を危惧して、郷土と天文の博物館では15年程前からボランティアの方と銭湯の記録を残すための調査を行っています。その調査結果の一部は、平成21年度と26年度に「かつしか街歩きアーカイブス」として、特別展で展示解説しています。

あるとき、銭湯の今昔について葛飾区銭湯組合連合会のよもやまばなし方と四方山話(よもやまばなし)に花を咲かせていると、銭湯主から「うちは今でも薪で湯を沸かしている。その方が体に優しいんだよ」という話を伺いました。そのとき脳裏に浮かんだのは、近かぶらききよかた代日本画の巨匠・鏑木(かぶらぎ)清方(きよかた)の随筆集の一節です。

昭和11年に発表された『入浴』という作品で、湯を沸かガスすのは電気、瓦斯(がす)、石炭で、まれ薪で燃やすことは稀(まれ)になった。煮物や焼き物の味が炭火と他の燃料とで違うのと同じように、薪で沸かした湯は瓦斯などと違い肌触りがいいという内容でした。

銭湯主の薪で焚いているという話を聞いて、清方が注目した湯を沸かす熱源の問題を思い出し、銭湯主の燃料へのこだわりが銭湯のおもてなしとなっていることを知りました。それだけでなく、湯の温しつら度、湯船や浴場の設(しつら)え、背景画、庭、置いてある飲み物など、多種多様なこだわりが守られながら、銭湯は営まれているのです。

葛飾区は銭湯が少なくなったとはいえ、他の地域に比べるとまだ多く残っています。銭湯の大きな湯船に体を沈め、今年一年を振り返ったり、新はしい年に思いを馳せたりする。そんなひとときを味わうのも、葛飾の師走の楽しみ方の一つではないでしょうか。

(郷土と天文の博物館)

※原文まま

※当記事は葛飾区広報課及び、郷土と天文の博物館より掲載許可を承諾の上で掲載させていただいております。